胃カメラ・大腸カメラの際に鎮静剤を使うことについて胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)や大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)は、病気の早期発見や治療のためにとても大切な検査です。ただし、多くの方が「怖い」「苦しい」「痛い」といった不安を抱いています。そうした不安や不快感を軽くするために使われるのが「鎮静剤」や「鎮痛剤」です。本稿では、それらの薬がなぜ使われるのか、どんな種類があるのか、副作用や注意点は何かを、わかりやすく説明します。鎮痛剤と鎮静剤について内視鏡検査の際に使用される薬は大きく2つの種類に分けられます。睡眠作用や精神安定作用のある「鎮静剤」と痛み対して使用する「鎮痛剤」です。鎮静剤内視鏡検査の際に眠った状態にする薬剤になり、麻酔を使った内視鏡検査の際にはほぼ全員に使用されます。鎮静剤には種類がいくつかあり、一般的に不眠症で使用される睡眠薬と同一の成分であるベンゾジアゼピン系の薬が使用されることが多いです。また最近ではプロポフォールという別のタイプの鎮静剤を使用する施設も増えてきました。鎮痛剤痛み止めの薬剤になります。胃カメラ・大腸カメラ共に使われる機会がありますが、主に大腸カメラの際に使用されます。胃カメラで使用される場合は喉の反射を軽減させるため、大腸カメラの際にはカメラ操作に伴う痛みの軽減のために使用されます。使用される薬剤は麻薬系鎮痛薬であるペチジンやフェンタニルが主に使用されます。なぜ鎮静剤と鎮痛剤が必要なのか?胃カメラの場合以前胃カメラとは「つらい」「オエオエする」「生理的に無理」と認識される非常に評判の悪い検査でした(必要な検査なのですが)。以前の胃カメラは太い(10mm程度)カメラしかラインナップがなく、また鎮静剤の使用が一般的でありませんでした。そのため喉に負担がかかり、非常に辛い検査となっていました。さらに人間の咽頭(のど)には異物を認識し舌根を刺激すると嘔吐反射が起こり吐き出そうとします。この反射は避けることできず、特に若年者や男性に強い傾向があります。この嘔吐反射の軽減のために鎮静剤や鎮痛剤が使用されます。大腸カメラの場合大腸カメラ検査は、挿入や屈曲部の通過時に不快感や痛みを伴うことがあります。鎮静剤を用いることで不安や痛みを軽減し、よりスムーズで安全な検査が可能となります。大腸カメラは内視鏡医(術者)の技量が影響しますが、完全に痛みや不快感をゼロにすることは難しいとされています。適切な鎮静の深さとは?内視鏡の適切な鎮静のレベルは患者さんによって求めるレベルが違いますが、多くの患者さんの願いは「寝ている間に検査が終わって欲しい」だと思います。内視鏡(胃カメラ・大腸カメラとも)の際の鎮静の深度の目安は米国麻酔学会(ASA)のガイドラインで以下のように分類されています。麻酔の深さは患者さんの立場からしたら深く完全に寝た状態である[深鎮静]が理想的ですが、鎮静は深くなるほど呼吸抑制や血圧の不安定化などのリスクが高くなります。このバランスを調整しながら内視鏡の際の鎮静を管理する必要があります。鎮静の深度意識状態自発呼吸気道反射特徴最小鎮静(鎮静化)正常の応答(言語・身体刺激に反応)保持保持不安軽減、痛みの軽減なし中等度鎮静(意識下鎮静)意図的刺激に応答保持保持多くの内視鏡検査で標準的、会話可能なこともある深鎮静繰り返しまたは痛み刺激に応答保持または障害される可能性部分的に抑制される可能性意識消失に近い、呼吸・気道管理に注意全身麻酔応答なししばしば人工呼吸が必要消失内視鏡では特殊例(ERCP・EUS・長時間手技など)最小鎮静:ほぼ起きている麻酔の深さ不安の低減を目的とし、内視鏡の際にリラックスした状態を維持するために使用します。そのため検査中意識ははっきりあります。あくまで不安の低減を目的とするため嘔吐反射や痛みの低減はありません。一方リスク管理の面からは呼吸抑制や血圧の不安定化は起こりにくく、安全性は高い麻酔深度です。中等度鎮静(意識下鎮静):比較的安全性が高いとされる麻酔の深さ日本消化器内視鏡学会が公表している内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第 2 版)では、この中等度鎮静(意識下鎮静)が望ましい鎮静深度とされています。一般的な認識では「ウトウトする程度」の軽い鎮静深度であり、声掛けや刺激には反応し、会話も可能になる場合もあります。呼吸抑制などのリスクはありますが、比較的安定した鎮静になります。胃カメラにおいて嘔吐反射などは抑制されず、「思ったほど効果がなかった」「もっと寝た状態で受けたかった」などの声もあります。深鎮静:理想とされる鎮静の深さいわゆる「寝た状態」での内視鏡の鎮静深度になり、いつの間にか寝て、目が覚めたら終わっています。検査中に痛みなどで動くことはありますが、基本的に検査中の痛みや苦しさなどの記憶はない場合がほとんどです。理想的な鎮静の深さですが、やや呼吸抑制や血圧の不安定化などのリスクは高くなるため、厳重なモニターのもと、扱いに慣れた医師・看護師が管理する必要があります。全身麻酔:手術の時の麻酔手術を受ける際の麻酔になり、基本的に麻酔科の専門医による管理が必要です。呼吸は完全に抑制され、気管挿管を行い人工呼吸が必要になります。究極の何も感じることなく内視鏡を受けることはできますが、専門的な設備や人員が必要となり、普通の胃カメラ・大腸カメラで適応となることはほとんどありません。時間が長くなる治療内視鏡など入院を前提とする内視鏡診療で行われます。胃カメラ検査を受ける際の麻酔の種類について?胃カメラの麻酔は「全身麻酔」ではありません。全身麻酔とは通常手術を行うための麻酔を意味します。これは麻酔科医が静脈麻酔などを使用し、完全に呼吸を停止させ、筋弛緩剤を併用し、人工的に呼吸管理をする麻酔になります。胃カメラを使用した長時間の内視鏡手技(内視鏡的粘膜下層剥離術ESDなど)は全身麻酔で行われることもありますが、通常の胃カメラでは全身麻酔は選択されません。胃カメラでの麻酔は起きた状態で受ける「局所麻酔」と、眠った状態ですが、自分で呼吸できる程度で鎮静剤を使用した「静脈麻酔」になります。胃カメラの局所麻酔と静脈麻酔について胃カメラを受ける際には局所麻酔と静脈麻酔(鎮静剤)が麻酔の種類であります。まず局所麻酔とは口に含むゼリーやスプレーによる麻酔です。主にキシロカインを使用し、カメラの通り道である喉を痺れさせる目的で使用します。静脈麻酔である鎮静剤は検査中の不安を和らげる目的で使用され、検査中に眠った状態にするために使用されます。この局所麻酔と静脈麻酔は併用されることもありますが、どちらか一方を選択することもあります。一般的に麻酔のない胃カメラとはこの局所麻酔のみの検査を指し、検査後も休憩を必要とせず、すぐに帰宅可能になります。静脈麻酔は一般的に「寝た状態で胃カメラを受ける」ことであり、検査の苦痛に最大限配慮した麻酔になります。そのため検査の後は最低でも30分は休憩して目を覚ます必要があります。また、胃カメラは鼻からの胃カメラ(経鼻胃内視鏡検査)と口からの胃カメラ(経口胃内視鏡検査)に分けられます。注射による鎮静剤を使用する局面は口からの胃カメラをする時になります。鼻からの胃カメラ(経鼻胃内視鏡検査)の際の麻酔について鼻から胃カメラを受ける際は局所麻酔での胃カメラになります。基本的に鼻からスコープは舌根(舌の根元)を刺激することが少なく、嘔吐反射が起こりにくいとされています。そのため検査の負担は軽減されるとされています。ただし、狭い鼻腔をスコープが通過するため鼻の痛みや鼻出血などを伴うことがあり、検査後の鼻の症状の持続が負担になることもあります。また鼻腔を広げる薬を散布しますが、それでもスコープが通過しない場合は口からの胃カメラに切り替えることもあり、マウスピースを加える作業も必要になるため、寝た状態での鼻からの胃カメラは基本的に実施されません。口からの胃カメラ(経口胃内視鏡検査)の際の麻酔について口からの胃カメラは局所麻酔と静脈麻酔の両方が選択可能です。検査中に寝て受ける必要がない方や、当日の運転が必要で静脈麻酔が選択できない場合には局所麻酔のみでの胃カメラになります。一般的に市町村が実施する胃がん検診では静脈麻酔が禁止、または極力使用しないなどの要請があるため、局所麻酔での胃カメラになることが多いです。一方、いわゆる「寝た状態での胃カメラ」は口からの胃カメラになります。口からの胃カメラの場合、舌根が刺激され、嘔吐反射が起こる可能性が高く、検査が辛くなることが多いためです。その場合は静脈麻酔が選択され、負担の少ない胃カメラが可能になります。過去に胃カメラでトラウマがあるなど、胃カメラへのハードルが高い方は静脈麻酔での胃カメラを強く推奨します。局所麻酔と静脈麻酔は併用されることもありますが、各医療機関で実施体制が異なります。もし気になる方は胃カメラを受ける医療機関に確認することもできます。内視鏡で鎮静剤・鎮痛剤を使用するメリット楽に検査を受けることができる鎮静剤を使うことで内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)の際の負担が軽減されます。特に胃カメラでは嘔吐反射を低減させるだけでなく、検査中の辛い記憶も感じさせない(健忘)ことも可能です。検査が終わった後に「今から検査が始まりますか?」と検査が行われたことを感じることなく終了します。全く検査のことを覚えずに終わることが可能であり、高い満足度を実現できます。また大腸カメラの際には痛みへの不安や羞恥心から腹部に力が入り、検査に時間がかかってしまい腹痛が増強されてしまうこともあります。内視鏡を施行する医師も落ち着いて検査ができる胃カメラの際に嘔吐反射が強い場合、医師にも心理的なプレッシャーになります。また嘔吐反射が続くことで安定した条件での観察が困難になります。心理的なプレッシャーを感じる中、観察条件が悪くなれば、質の高い検査の実施が困難になってしまいます。嘔吐反射など検査の安定した実施に不安に感じる方は、是非鎮静剤を使用した「苦しくない胃カメラ」を受けていただいた方が良いでしょう。大腸カメラの際も、痛みを強く感じる場合は医師に心理的な負担が生じ、検査の遂行が困難と判断する場合もあります。無理な操作は禁物ですが、大腸カメラの疼痛を防げることは大きな心理的な安心を得られるメリットになります。病変の見落としを防げる鎮静剤を使用することで、胃カメラや大腸カメラでの検査の質の向上につながることが期待されます。胃カメラの場合は嘔吐反射で胃の空気が抜けるため、胃の拡張した状態での観察が制限されます。鎮静剤を使用すると嘔吐反射が抑制されるため、観察条件が安定します。そのため状態評価や病変の同定に時間を使用することが可能となり、もし病変があった場合の見落としの可能性も低減できます。大腸カメラでも鎮静剤の使用は安定した視野の確保につながります。また大腸カメラの際は鎮痛剤を併用することもあり、実際に疼痛抑制効果も期待されます。安定した鎮静剤・鎮痛剤の使用により腸管の蠕動運動も安定し、視野も安定することで病変見落としのリスクが低減されます。また次に検査を受けることへのハードルが下がる胃カメラと大腸カメラは定期的な周期での検査が推奨される場合があります。代表的な例としては萎縮性胃炎とヘリコバクター・ピロリ菌の感染の合併、または除菌治療後の場合です。この場合は胃がん検診として1年毎の胃カメラ検査が推奨されます。大腸カメラの場合は大腸ポリープを切除した場合はその個数やサイズ、病理診断の結果によっては1~3年後の大腸カメラが推奨されます。上記のように胃カメラ・大腸カメラは定期的な検査が必要になる場合があり、検査の時の経験がトラウマになってしまうと、今後適切な内視鏡検査を受けることを躊躇うことに繋がり、結果として防ぎうる胃がん・大腸がんを見逃すことにつながります。胃カメラ・大腸カメラは限りなく負担を低減させて受けることで、次の検査への不安の低減につながります。内視鏡で鎮静剤・鎮痛剤を使用するデメリット副作用(呼吸抑制や血圧変動、アレルギーなど)のリスクがある医療で使用される薬は全て有害事象(副作用)があります。「薬はリスク」という有名な言葉があるようにこれは避けることができません。そのため医薬品使用に際してはそのリスクを適切に把握し、その発生を的確に確知し、または予防することが必要です。内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)の際に使用される鎮静剤・鎮痛剤は基本的に全身麻酔での手術でも使用される薬剤になります。以下に主な有害事象(副作用)になります。呼吸器系の副作用:呼吸抑制、無呼吸、気道閉塞循環器系の副作用:低血圧、徐脈、不整脈中枢神経系の副作用:せん妄、健忘消化器系の副作用:悪心、嘔吐、誤嚥アレルギー:発疹、気管支痙攣、アナフィラキシー特に呼吸器系の副作用と循環器系の副作用は麻酔を管理する医師は慎重に管理することが必要です。鎮静剤は呼吸を浅くし、また舌根が下がり気道が狭くなります。また鎮静作用が強くなったら呼吸が止まる無呼吸になる場合もあります。また鎮静剤は心臓など循環器系にも作用し血圧が低下する恐れがあります。そのため検査中は生体管理モニターで酸素飽和度と血圧、脈拍など慎重な管理下で検査を行う必要があります。車・バイク・自転車の検査同日の運転ができない鎮静剤・鎮痛剤を使用する際のルールとして使用後は終日車・バイク・自転車の運転は厳禁です。これはほぼ全ての医療機関が設けているルールです。なぜなら鎮静剤・鎮痛剤を使用している状態は、アルコールを飲んだ状態で運転している状態と同じだからです。判断力が低下し、なおかつ催眠作用が持続し、居眠り運転の原因にもなるからです。そのため自家用車での通院であれば誰かに運転してもらうか、公共交通機関での通院が必要です。効果に個人差があり、期待した程の鎮静が得られないことがある薬剤の作用の程度は個人差があります。まずは体格の大きい人と小柄な人では必要な薬剤の量も違い、また効果の発現の程度も変わってきます。年齢においても高齢になれば、より少ない量で効果が強く発現し、副作用のリスクも高くなります。そのため高齢の方に使用する場合は容量をやや少なくすることもあります。またアルコールを日頃から多く飲む大酒家の方は鎮静剤が効きにくいとされています。それは鎮静剤が作用する脳の受容体とアルコールが作用する受容体が同じため、日頃からアルコールで刺激されている状態では、薬が受容体に作用する際にさらに多くの量が必要になるためです。その他にも日頃から睡眠剤や精神安定剤などを常用されている方は、効果の閾値が高くなり、鎮静剤の効果が発揮されにくくなります。以上のように効果の程度には個人差があるため、麻酔の効果が思ったほどなかった、などの感想を抱くこともあります。予想以上に効果が持続し、検査の後予想以上に休息が必要になる場合がある特に2剤以上の薬剤(ベンゾジアゼピン系薬剤や鎮痛剤など)を併用した場合、効果が持続してしまい、なかなか検査後に起き上がることができず、覚醒まで時間を要することがあります。そのため予想より長いリカバリー時間を要してしまい、帰宅までの時間が遅くなることもあります。鎮静剤を希望する場合はスケジュールには余裕を持って検査を受けてください。特に鎮痛剤を併用した場合、検査の後に悪心・嘔吐の症状をきたす場合がある内視鏡で使用する鎮痛剤は検査の後悪心・嘔吐の症状を起こすことがあります。特にこの症状は女性に出やすいとされています。最近ではこの副作用を考慮し、鎮痛剤を併用せず、鎮静剤のみでの鎮静に統一する医療機関も多くなってきています。以前内視鏡後に悪心・嘔吐の症状で困ったことがあれば一度相談することをお勧めします。内視鏡検査で使用される鎮静剤・鎮痛剤について内視鏡診療で使用される鎮静剤と鎮痛剤は色々とラインナップがあり、各医療機関が選択して使用しております。基本的に鎮静剤をベースに使用し、施設によっては鎮痛剤を追加することが多いです。鎮痛剤のみでは鎮静効果はないので、基本的に鎮静剤と併用する使用方法になります。ミダゾラム(商品名:ドルミカム)鎮静剤ベンゾジアゼピン系の薬剤であり、一般的な睡眠剤の成分と同一の薬剤になります。ベンゾジアゼピン系薬剤はいくつか種類がありますが、ミダゾラムは作用の発現までの時間が短く、また効果も持続しない(短時間で効果が切れる)ため、内視鏡診療では最も使用されている薬剤になります。大きな特徴は作用時間が短く扱いやすい点ですが、リバース剤があるため、いざという時に効果の打ち消しが可能な点も特徴になります。つまり強制的に目を覚まさせることが可能です。さらに健忘作用も強いため、検査中の不快な記憶がなくなることも特徴の一つになります。特徴内容作用発現静脈内投与で 1〜3分と速やか持続時間短時間(成人で20〜40分程度、ただし高用量・連続投与で延長)代謝肝臓で速やかに代謝(CYP3A4による)、代謝物は尿中排泄主な作用鎮静、催眠、抗不安、筋弛緩、健忘作用(前向性健忘)リバース剤フルマゼニルで拮抗可能投与経路静脈内、筋肉内、経口(稀)、鼻腔内、直腸内(小児けいれんで使用されることあり)ジアゼパム(商品名:セルシン):鎮静剤ベンゾジアゼピン系の薬剤であり、内視鏡診療においては長い歴史があり、使用経験のある医師も多い薬剤になります。作用時間はミダゾラムやフルニトラゼパムより長く、マイルドな鎮静効果が特徴です。検査の後に作用が持続し、ふらつきや眠気が数時間続くこともあります。ベンゾジアゼピン系の薬剤でありジアゼパムにも拮抗薬があり、強制的に覚醒させることが可能です。項目内容分類ベンゾジアゼピン系薬剤(長時間作用型)作用機序GABA(A)受容体に作用し、GABAの抑制作用を増強(神経の過剰興奮を抑制)投与経路静脈内投与、筋肉内投与、経口投与(内視鏡では静注が主)作用発現静注後2〜5分程度(ミダゾラムよりやや遅い)持続時間長い(数時間〜半日以上、代謝物の作用も含めて作用時間が長引く)代謝肝臓で代謝(活性代謝物=デスメチルジアゼパムなどが長時間作用)主な作用鎮静、抗不安、抗けいれん、筋弛緩、健忘(ミダゾラムほど顕著でない)リバース剤フルマゼニルで拮抗可能フルニトラゼパム(商品名:サイレース):鎮静剤ベンゾジアゼピン系の薬剤であり、内視鏡診療においては長い歴史があり、使用経験のある医師も多い薬剤になります。作用時間はミダゾラムより長いですが、しっかりとした鎮静効果があります。検査の後に作用が持続し、ふらつきや眠気が数時間続くこともあります。ベンゾジアゼピン系の薬剤でありフルニトラゼパムにも拮抗薬があり、強制的に覚醒させることが可能です。項目内容薬剤分類ベンゾジアゼピン系薬剤(長時間作用型)主な作用鎮静、催眠、抗不安、筋弛緩、健忘投与経路静脈内注射(0.2~0.4 mgが一般的、個別調整必要)発現時間数分以内(静注の場合)持続時間数時間(作用時間は比較的長め)メリット- 安定した鎮静効果デメリット- 呼吸抑制、血圧低下のリスク特記事項- 高齢者・基礎疾患患者は減量が必要プロポフォール(商品名:ディプリバン):鎮静剤全身麻酔で手術を行う局面では最も使用される鎮静剤になりますが、近年は内視鏡診療でも使用される機会が増えてきた薬剤です。最大の特徴は効果の発現が非常に早く、さらに鎮静効果も十分あり質の高い鎮静効果があります。そして検査終了後に麻酔から覚める際にも早期に覚醒することが期待できます。項目内容薬剤分類静脈麻酔薬主な作用強力な鎮静・催眠作用(GABA受容体刺激)投与経路静脈内注射(初期 0.5~1 mg/kg、必要に応じ追加投与)発現時間30~60秒以内(非常に速い)持続時間短時間(5~10分程度、持続投与で調節可能)内視鏡使用目的強い鎮静・鎮痛的補助作用(深鎮静、苦痛の少ない検査実施)メリット- 発現が極めて速く、回復も速やか- 鎮静深度の調節が容易デメリット- 呼吸抑制、血圧低下が起こりやすい特記事項- 酸素投与・モニタリング必須- 原則として麻酔科医や訓練された医師が投与レミマゾラム(商品名:アネレム):鎮静剤2025年6月に内視鏡診療における鎮静剤として保険適応になった新しい鎮静剤になります。薬剤としてはベンゾジアゼピン系のミダゾラムの進化した薬と表現されます。特に効果の発現が非常に早く、また覚醒までの時間もより短縮されています。さらに呼吸抑制など鎮静剤の副作用のリスクも抑えることが可能となり、安全性も向上しています。項目内容薬理作用超短時間作用型ベンゾジアゼピン系鎮静薬GABA-A受容体作動薬特徴的作用素早い鎮静導入・速やかな回復拮抗薬(フルマゼニル)で確実な覚醒が可能投与経路静脈投与(初期負荷+持続静注または追加ボーラス投与)鎮静の深さ用量に応じた可変性あり(軽度~深度鎮静まで調節可能)呼吸抑制ミダゾラムより軽度とされるが、高用量では注意必要循環作用循環抑制は比較的少ない(プロポフォールより安定)鎮痛作用なし(鎮痛薬との併用が必要)適応例胃カメラ、大腸カメラ、短時間処置に適する迅速な回復が求められる症例使用上の注意高用量での呼吸抑制、過鎮静に注意肝障害例では慎重投与使用例日帰り内視鏡検査、外来検査、フルマゼニルによる迅速覚醒が必要な症例今後デクスメデトミジン(商品名:プレセデックス):鎮静剤ICU(集中治療室)などで使用されることが多い鎮静剤です。比較的新しい鎮静剤であり、安全性が高く呼吸抑制のリスクが少ないとされています。そのため内視鏡診療でも使われる頻度が増えてきております。一方使用する際には初期投与量とその後の維持量の調整など、麻酔の導入に時間がかかる側面があり、通常の胃カメラ、大腸カメラで使用される局面は限られます。主に治療内視鏡で長時間の処置が必要な検査での鎮静が適している薬剤になります。項目内容薬理作用中枢性α2アドレナリン受容体作動薬鎮静・鎮痛作用、交感神経抑制作用特徴的作用自然に近い鎮静(覚醒可能な鎮静)、軽度の鎮痛作用投与経路静脈投与(持続静注が基本、必要に応じて初期負荷投与)鎮静の深さ中等度鎮静(患者は刺激で容易に覚醒するレベル)呼吸抑制ほとんどなし(ミダゾラムやプロポフォールと比べ安全性が高い)循環作用徐脈、低血圧に注意(特に負荷投与時、または高用量時)鎮痛作用軽度の鎮痛作用あり(単独では不十分なことが多い)適応例呼吸抑制リスクが高い患者、高齢者、呼吸器疾患患者使用上の注意徐脈・房室ブロックのリスク、投与速度に注意初期負荷投与は必要最小限または省略を検討使用例胃カメラ、大腸カメラでの鎮静補助、長時間処置や高リスク患者での選択肢ペチジン(商品名:オピスタン):鎮痛剤ペチジンは麻薬系鎮痛剤となり、主に痛みを軽減するために使用されます。また鎮静剤を併せて使用することで相乗効果を期待できます。主にベンゾジアゼピン系の薬剤と併用されることが多いです。このペチジンは吐き気や気分不良を起こすことがあり、特に女性で起こりやすいとされています。項目内容薬剤分類合成麻薬性鎮痛薬(オピオイド)主な作用鎮痛作用、軽度の鎮静作用投与経路静脈内注射(通常25~50 mg、患者に応じ調整)発現時間数分以内(静脈注射の場合)持続時間約2~4時間メリット- 内視鏡挿入時の腹部不快感・痛みを軽減デメリット- 呼吸抑制、悪心・嘔吐、掻痒感のリスク特記事項- ベンゾジアゼピン系薬剤と併用することが多いフェンタニル:鎮痛剤特に海外での内視鏡検査では頻用されているオピオイド系鎮痛剤になります。非常に強力な鎮痛作用があり、作用時間も比較的短いため、内視鏡診療として使用されることが多い薬剤です。項目内容薬剤名フェンタニル薬理作用強力オピオイド鎮痛薬(モルヒネの約50~100倍の鎮痛作用)作用発現時間静脈投与後1~2分作用持続時間約30~60分(ボーラス投与時)主な適応(内視鏡)-上部内視鏡(経口胃内視鏡で咽頭反射強い例)投与法静脈内ボーラス投与(初回25〜50 µg、必要に応じて追加投与)併用薬ミダゾラム、プロポフォール等(鎮静補助として併用)メリット・強力な鎮痛作用・速効性、短時間作用型デメリット・注意点・呼吸抑制(特に高齢者、肥満、OSA患者でリスク増)理想的な鎮静剤とは?理想的な鎮静剤の条件は以下の3つです。効果の発現が非常に早く、そして効果が切れるのも非常に早い(早く効いて、早く目が覚める)十分な鎮静効果が得られる(深鎮静)呼吸抑制や血圧の不安定化などの副作用がない今現在上記の3つの要素を全て満たす薬剤はありません。近年内視鏡診療で使う機会が増えてきたプロポフォールは1と2は満たしますが、副作用のリスクは他の薬剤より高くなるため、扱いの慣れた医師による管理が望ましいとされています。ベンゾジアゼピン系の薬剤は比較的安全性が高いですが、やや効果のスピードはプロポフォールに劣ります。2025年に内視鏡診療における鎮静剤として保険診療が認められたレミマゾラム(商品名:アネレム)はこの欠点を補ったミダゾラムの次世代薬として今後使用される頻度が増えてくると思われます。現状ではこれらの薬剤事情を考慮し、各医療機関が独自に使い慣れた薬剤を使用しています。鎮静剤使用の際の注意点服装について鎮静剤を使用する際に服装の指定はありませんが、血圧計を巻いての検査になりますので、腕が捲りやすい服装か、または検査着に着替えていただくことが望まれます。また内視鏡検査の際にはワンピースタイプよりはセパレートの服を着ることが推奨されています。爪のネイル装飾について鎮静剤・鎮痛剤を使用する際には酸素飽和度の測定が必須になります。この酸素飽和度は血中が運ぶ血液に含まれる酸素の量を測定し、呼吸の指標になります。この測定器は指に装着するため、ネイル装飾などがあると正確な測定が難しくなり、安全な鎮静剤の使用ができなくなります。可能な限り検査の際にはネイル装飾はしないことが望まれます。移動手段について鎮静剤・鎮痛剤をした後は自動車、バイク、自転車の運転は厳禁です。鎮静剤・鎮痛剤を使用した後はアルコール摂取後と同じ状況になり、判断力が低下している状況になります。最低でも検査同日は運転を控える必要があります。そのため帰る際には公共の交通機関か、家族や知人の送迎、徒歩での移動が基本になります。結局内視鏡(胃カメラ・大腸カメラ)を受ける際に鎮静剤を使うべき?「是非、鎮静剤を使った内視鏡(胃カメラ・大腸カメラ)を受けた方がいい!!」鎮静剤を使用しない胃カメラや大腸カメラは、受けるまでのハードルが非常に高くなってしまいます。誰しもが体に負担のない内視鏡を希望することは当然のことです。理想的な環境とは鎮静剤を使用せず、そして負担が全くない内視鏡検査です。ですが、現実的にたとえ高い技術を持ってしても内視鏡に痛みや苦痛はある一定の頻度で生じてしまいます。この痛みや苦痛は鎮静剤・鎮痛剤を適切に使用することで対処可能です。確かに鎮静剤・鎮痛剤を含め薬剤にはリスクがつきものです。しかし、適切な使用方法と使用環境で、扱いに慣れたスタッフが在籍する専門施設であれば安全に鎮静剤を使用した内視鏡を実施することが可能です。是非内視鏡(胃カメラ・大腸カメラ)を受けるかどうか不安で迷っている時は、専門施設で鎮静剤を使用した検査をお勧めいたします。